
今から約20年も前になるだろうか開業前の神奈川で私はハリでアルバイトをしていた。
治療院を持たず他に生活の手段を持たない新米鍼灸師は患者獲得のためにサウナや旅館への出張治療から始めた。
私の治療を気に入ってくれ治療を目的に遠くから来てくれる患者さんが少しずつ出来てきた
東京には資産家も多くその中の1人不動産の仕事をしているAさん、わざわざタクシーやヘリでやってくる。そして旅館を1人で貸切往診の依頼・・・全く他人に会いたくないらしい
体重は120キロ酒の飲みすぎで肝炎からくる大腿骨頭壊死、外れた関節を戻そうにも立つと元通り
「先生、体も関節ももうあきらめていますから痛みだけ取ってください」
確かに肝硬変と120キロを支え、ゆがんだ体のせいで体中いろんな障害と疼痛でつらいだろう

「そうですね、とりあえず症状を取りましょう」
「先生のハリは痛いけど効きますね。他所ではだめです」
富山へ戻る頃の患者さんだったので他の治療院を何件か紹介したのだが、すぐ戻ってくる
「ところでAさんは酒を飲んでいるのでは」
「ハイ針をしたあとは特に酒が美味くて何軒もはしごをします」
「どのくらい飲むのですか」
「普段は1升くらいで、ハリのあとは2升・・・もっとかな」
「それはあんまりだ治療のためにハリをしてるのですよ。もっと肝臓が悪くなりますよ」
「どうせ私は長くありませんから好きにやります」
「今日は、家内と娘も見てやってください」
「わかりましたけどお酒は控えてくださいね」
その後帰る日に電話があったり研究会の会場へ治療をせがみにおしかけたり・・・開業後に2~3回こちらに治療に見えたが時間の都合もあって継続不能
果たして今は生存されているのかも不明だ・・・